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ショーペンハウエル『幸福について』(角川文庫、石井正、石井立訳)
- 2009.07.26 Sunday
- 読んだ本のこと
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- by jouhouko
◇賢者と愚人
《だいたいわかりきったことだが、昔から賢者は常に同じことをいってきたし、愚人も――いうまでもなく昔から彼らが世の人の大部分なのだが――常に同じこと、つまり賢者の言葉とは正反対のことをやってきた。しかも、それは今後もそのまま繰りかえされることだろう。ヴォルテールはいっている。「わたしたちのやってきたとき、この世の中には、無知と意地悪とが満ちていたが、それはわたしたちの立ち去ってゆくときにも変わるまい。」》(ショーペンハウエル『幸福について』角川文庫、石井正、石井訳)
こういう書き方(少数の賢者と多数の愚人というような)は、ショーペンハウエルが生きた時代には、ごく一般的な風潮だったのではないか。こういう表現にはそれなりに率直な真実性があり、またたしかに魅力的でもあったのだろ思うのだ。(ただ、現代という時代には、あるていど違和感があることは否めない。違和感があるものの、それでもその文章には、独特の高踏的な調子、敵対する者たちを論破し揶揄する調子が込められているのである。)
◇人は
《すべての人は、直接には、その独自の表象・感覚及び意欲の動きに伴って行為しているわけで、外界の事態は、それが人の表象・感情・意欲の動きの原因となり得るかぎりにおいて、人に影響を与えるばかりだ。すべての人の生きる世界は、先ずもってその人がその世界をどう考えているかに依存し、なおその人の頭脳の相違によって、その方向が異なってくる。この頭脳に応じて、世界は貧弱・無趣味・平凡なものともなれば、また豊富な・興味深い・有意義なものとなる。》
《例えば、多くの人が、他の人が生きているうちに遭遇した事件などを見て、あの人は興味ある事件に出会ったものだといって羨ましがることがあるけれど、実はむしろ彼らは、その人がそのような事件などを記述するうちに、それに深い意味をもたせた理解力をこそほめたたえ、羨んでしかるべきなのだ。何といっても、同一の事件が、精緻な頭脳の持主には甚だ興味深く表現されるのに、浅薄な・平凡な頭脳につかまえられては、ただのありきたりな世の中の気の抜けた一場面に過ぎないものになってしまう。このことを最も著しく証明しているのは、ゲエテやバイロンの数多い詩で、これは明らかに現実の出来事に基づいているものだ。ところで、愚かな読者は、詩人が、日常茶飯事から、かくも偉大な美しいものを作り上げることのできた力強い空想力について羨むまでには至らず、すべての人からかくも持てはやされるようになった事件に出逢ったことを羨むのがせいぜいなのだ。》
《人間のために存在したり・生起したりする総べてのことは、直接には常にただ人間の意識のうちに存在し、意識において生起するだけだから、意識そのものの性状が、最も本質的なものであって、多くの場合に、意識のうえに現われる形象などより、この性状の方が一層大切だということは明白である。たとえば、或る愚物の鈍重な意識に映じた・ありとあらゆる豪奢や享楽などは、セルバンテスがあの不快な牢獄の中で「ドン・キホーテ」を草した際の意識と較べれば、はなはだみすぼらしいものという外はない。》
《現実と真実との客観的半面は運命の手中にあり、従って変化するが、主観的半面はわたしたちそのものであり、本体的なものであるから、不変である。だから、すべての人間の生涯は、外界のあらゆる変遷にもかかわらず、同一の性格を一貫して持ちつづけ、いわば一つの主旋律にもとづく一系列の変奏にも似通ったものなのである。誰でも自分の個性からは脱け出し得ない。》
《要するに、最も高尚な・最も多彩な・最も持続的な享楽は――わたしたちが青年時代に、どんなにかこれに就いて思い違いしようとも――精神的享楽であり、精神的な享楽は主として精神的な力量に従属する。――以上のことから、わたしたちの幸福がどれほど強く、私たちが在るもの・わたしたちの個性に従属しているかがはっきりするだろう。にもかかわらず、たいていの人はわたしたちの運命のみを、わたしたちの持つものやわたしたちの表象するものばかりを、勘定に入れている。運命はもっと好転するかも知れないし、それに人は、内面の豊饒さに応じて、運命からさほど多くのものを要求しないで済むだろう。だが、最後まで愚人は愚人、鈍物は鈍物で終り、臨終の際までも、キリスト教の天国に蘇り回教大国の美女たちに囲まれたいと願ったりするのだ。だから、ゲエテはうたう。
民も、農奴も、陶酔者たちも
しみじみという、いずれの時にも
地の子らの試行の福(さいわい) ただ
人の天稟にあるばかりだ と (西東詩篇)》
ショーペンハウエルの文章は素晴らしい楽しみを精神に与える。ただ、あまりにも豊富、豊饒すぎて、読むのがしんどい。あらゆる行、あらゆる部分に、素晴らしい考察、意見、洞察が充ち満ちている。どの行も書く写して記憶に残したい、座右の銘にしたい、と思う。それがあまりにも多すぎて、書き写していると、前に読み進めない。
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