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  • 2015.07.11 Saturday
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朝、職場の駐車場で歩いてすれ違い…

 またしても思いがけないことになってしまった… とてもまずい希望のないことに

 朝、このうえまた彼女の前に姿を見せることはとてもできないと思い、それは避けようときめていた。時間も遅れ気味に出た。道路が混んでいたのに案外早く着いた。唯一許されるのは職場の駐車場に入るとき、入り口で車同志で出会うこと。
 期待したがだめだった。
 駐車場に入って車の中で待っていた。
 もう行ってしまったのだろうか、彼女は、先週彼といやな出会いかたをしたので、同じ時間帯を避けるために、これまでよりも早く出てきたかもしれないという気もしていた。

 8時50分を過ぎたとき、彼女の車が入ってきた。いつもと変わらない時刻。彼を避けるのならどうして時間帯を変えないのだろうか。よく見られなかったが、とくに手を頬にあてるようなポーズもなかった。彼女が歩いてくるのを見たいという思いはあった。車の中にとどまったまま見るか、それとも歩いて近づきながら見るか、はっきりときめていなかった。

 彼の停車位置からでは遠すぎてよくわからない。できたら車を降りて歩いていく途中、あるていど離れた場所から見たい。けれども彼女が出てくるのが遅くなると、接近しすぎて彼女の目にとまってしまう危険性がある。相当に時間を置いたが、彼女はなかなか現れない。
 よしもう大丈夫だろうと考えて車を出た。駐車している車たちの列に隠れるようにしながらゆっくりと近づいていった。それ以上近づいたらまずいという地点まできたが、彼女は現れない。それ以上とてもそのまま進めない…

 彼はやむなく右の方へ折れたが、そのまま折れて行ってしまっては彼女を見る機会が不意になる。
 それでまたもどって玄関の方へ向かった。うろうろしていると人目について変に疑われると困惑しながら〈運命の方向へと進んでいくしかなかった!
 するとちょうど先日とまったく似たタイミングで、彼女が前方から歩いてきた。

 
これにはほんとうに困った。まるでねらってきたかのようではないか!

  このまえのように顔をそむけるようなことはしたくない。とにかく彼女を見ようと思った。あの日と同じように彼は最初それとなく前を向いて彼女の方へ視線を向けないでいた。それから起こったことはとても悲しいことだった。何度考えても彼女が〈どうしてあんなふうな動作を見せた〉のかよくわからない気がする。

  彼女は、彼を目にしてとても強い当惑にとらえられたにちがいない。それはまちがいのないところ!  その当惑の感じは予想以上で、〈一瞬彼女はまっすぐ前に歩くことを止めて、彼女からすると左の方へふらふらっとそれていくような動〉を見せた。歩調が緩くなっただけでなく左側に止めてある車の列の方へそれようとした。つまり彼は、彼女の右側ですれちがうことになるのだったから、明らかに〈彼とすれちがうことを避けようとする動き〉だった。
(これは後で思いついたことだが、そのあたりに細い通路がある、彼女はそこから入ろうとしたのかもしれない。そこは車が並んでいて塞がれていたので、彼女はそちらへ行けなかったのだろうか。)

 彼女のその動きに彼は驚き胸が痛む思いを感じた。

 どうしてそんなに露わに避けようとするのだろうか。そんなにまでされるされるほど、事態は〈取り返しのつかないことになっている〉のだろうか。

 彼は彼女の方へ視線を向けた。彼女の顔が目に入った。

 彼は軽く口を開け、頭を下げてあいさつの動作をした。彼女は少し顔を伏せ加減にしたまま、彼の顔を見ないでつぶやくように弱々しく「おはようございます」と言って過ぎ去ったが、その言葉には〈好意的なものはなにもなく、ただ避けているという印象、もう顔を見ることもしたくないという印象〉があるだけだと、彼は感じた。

(いったいそんな、〈あまりにもぶしつけで悪意を隠さない〉ような表情を、彼女はどうして彼に見せることができたのだろうか? よほどひどいことをされたと思っているのではないだろうか?  勿論普通の場合ならとてもそんなことはできないのである。)
  彼が〈厚かましくそこで出会う〉ことをねらってきたということを彼女は疑わなかっただろう。彼は落ちついて考えることもできないほど呆然としてしまった。とりあえずそこにあった自動販売機のお茶を買った。頭に熱いものが詰まっているように感じた。

 彼女の顔を見たとき、少しも美しくない、そんなに心を引くものがあるわけではない、と感じるものがあった。

 先日見たような青さは感じられなかったが、顔の感じにどこかみだれて(崩れて)哀れな感じがあった。白っぽく老けてみえた。彼女は〈彼の愚かしい卑怯な行為のせい〉で〈想像以上にひどく苦しんでいる〉のだろうか…

  勿論彼女に出会ってしまった自分の軽率さを後悔した。

 あれほど出会うことを避けようと考えていたのに。
 もっと十分に慎重でなければならない、と反省した。

 けれども何よりも衝撃だったのは、彼女から避けられている、彼女の心にはもう彼に親しさを見せようとする気持がなくなっている、彼女はそこまで追い込まれているのだという思いだった。彼女をこれ以上苦しませてはいけないという思いは勿論あったが、それよりももっと苦しいのは、彼女から親しみをもたれることもなくなった、彼女から恨まれ嫌われ避けられるようになってしまった、という事実だった。彼を見ることは彼女にはもう苦しみ以外の何でもなくなった、という取り返しのつかない事実。
  事務所に入っても本当に頭と身体に熱い衝撃がつまったように呆然とした状態が続いた。〈避けられているという事実の苦しさ、痛さ〉は、それでもまだそんなに〈最終的な絶望〉にまではいたっていなかった。彼女がかすかながら「おはようございます」と言ってくれたことは嬉しかった。
 あれはむしろ〈好意よりも拒否を表していた〉というべきなのに。

 最初彼女がふらふらっと横にそれようとしたときのようすを思い返すと、衝撃であるだけではなく、とても愛しい気がした。
 
どうしてあんな弱ったような顔、あんなふらふらする動き、あんな青ざめた気持を見せることができるのだろうか!  いくらなんでも彼女はそんな人ではない。平常な心があるなら彼女はけっしてあんなものを人に見せないだろう。心が異常なとらわれの状態におちいっている徴である。

(いまこれを書くとき思いがけない一つの可能性を感じた。彼女は彼へのどうすることもできない思いを感じているのではないか。それで悩み苦しんでいて、あのような弱ったような顔を見せてしまうのではないか。勿論ただちに否定される。けれどもこの期に及んでなおこんな希望が生じるとは!)

  たとえ彼が彼女に対してとてもひどいことをしているとしても、彼女は彼を無視しながらも傷つけまいとして表向きは何ごともなく平静にしているだろう。いや、そうではない。彼女は事態を非常に深刻に感じているのだ。そのきっかけはおそらくあの年賀状だったかもしれない。
  彼女が見せた横にそれる動き、心弱ったようなみだれた顔つき、青ざめた心

 それを思いだすと、彼は心に興奮を感じた。
 彼女の顔は美しくなかったが、〈彼女という人の存在の何ともいえないよさ〉はそんなこととはまったく関係がない。
 ただ、そんなに魅力的にも感じられなかった彼女にこのような思いを持ちつづけることは、彼女に対してとても悪いこと、酷いことをしているような気がするのだった。
 
 彼女も顔を背けることにならなかったことで、安堵を感じているのではないか、と想像したりした。背けることは悲しすぎる。

 
彼とすれちがうことは彼女にはおおきな衝撃、当惑、悲しみであるにちがいない。そんなことが重なっていくうちに、それが一つの強く深い喜びとならないだろうか、という思いが浮かんだ。彼と出会うことは彼女にとってただもう嫌なばかりなのだろうか。どうして顔を見ないほどにまで避けなければならないのだろうか。

 送った年賀状がそんなに悪かったのだろうか。彼女の家の前を車で通ったことがよくなかったのだろうか。それはたしかにどう弁解しようもなくひどいことではあったが…

 やはりどうしても否定できない事実として残るのは、「彼女が彼を避けるようすが非常に明らかでほかにどう考えようもない」ことである。それもこのところずっと繰り返されている。もう疑う余地はない。それなのにまだ、ともするとその痛みを忘れて、あらぬ希望の思いを育んでしまうのだ。けれどもこの一点だけは、苦しい不吉な事実として残ってしまう。
「それではあれはすべて何だったのだろうか」と彼は繰り返し自問した。「同じ事務所にいられた幸福な時代に彼女がしばしば見せたものは何だったのだろうか。あれがすべて嘘だった、幻想だった、というのだろうか?」

 いずれにしても、これからはもっと十分に用心して彼女の目から自分を隠すようにしなければならない。

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