<< 警察に捕まって、宗教を選ばせられる夢  | main | 「楽しいことをメモする」と人生はどんどんよくなる」(斉藤茂太著) >>

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彼女に気付かれたいなどとはとても思えなかった… (創作メモ)

 日曜日だったか、午後、娘たちにせかされて、M市のスーパーマーケットへ買い物にいった。雅美がシュークリームを作りたいというので、材料を買うのが主目的だった。
 ジャスコの食料品売り場(野菜売り場のあたり)で、大勢いる人たちの中に、彼はふと一人の女性を目にとめた。

 「〈彼女〉に似ている…」とそのとき彼は思ったのだ。

 背格好、姿形、髪の形、雰囲気がたしかに彼女に似ていた。後ろ姿しか見られなかったが、見れば見るほど「彼女ではないか」「彼女かもしれない」という思いがあった。たしかに彼の知っている彼女に比べると、心持ち太り気味、大柄な感じもしないではなかったが、けれども彼女の姿をずいぶん長く見ていないのだから、最近の彼女を彼はまったく知らない。この程度の変化が彼女に起こっていても不思議ではない。

(なぜ彼女がわざわざ家から離れたS市のスーパー店まで出かけてきたのか、あるいは彼に出会うかもしれないということも念頭にあったのか、といった愚かしい幻想も心にわき起こらないこともなかった。)

 とはいえ、そのとき自分が感じたのは、彼女かどうか是非確かめたい、というものではなく、彼女に気付かれないうちに姿をくらましたいというものだった。
 気付かれたくない、気付かれたらまずい(適当な対応ができずにみっともないところを彼女に見せることになってしまう)、という不安だった。
 〈彼女〉を確かめたい、という思いもそう強くなかった。
 まして、彼女に気付かれたいなどとはとても思えなかった。
 
 何よりもまず気付かれないように、という考えが優先したので、彼はそのままその場を去った。

 娘たちのところへ戻って、雅美が必用とするものを探してなおも店内をあちらこちら回った。ひょっとして〈彼女〉と出くわしたらとてもまずいと思いながら。

 その後、彼女かもしれなかった女性の姿を見ることはなかった。
 そのうちにこちらからもう一度見たいと思って、周辺に視線を向けてみたが、その女性はついに見かけなかった。

 ただ、後になるほどに、彼女かどうか確かめたかった、彼女を見たかった、という思いが強まってきた。たしかに彼女を「見る」ことには、ある喜ばしい興奮がある、ことをあのときも感じたのである。先ほど目にした彼女かもしれない女性の姿形が、客観的にいって、それほどのものとも思われないにもかかわらず、特別な喜びの予感、興奮が心に生じたのは、特筆に値する。
 同時に、彼女と出会うことへの恐怖、さけたいという思いが非常に強いことを改めて知った。恐怖というのは、相手に知られることへの恐怖である。出会っても、何も言葉がなくかえって無様なことになるという恐怖である。
 

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