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  • 2015.07.11 Saturday
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昨日とはまたちがった苦しさ  【素材】 

 そんななかで今日感じたのは、昨日とはまたちがった苦しさだった。

 いや生理的、身体的な苦しさの質は同じなのだが、そのもととなる考えが昨日とはちがっていた。
 昨日は彼女を苦しませ、危機と不安に陥れるようなことをしている自分を思い描いて苦しんでいた。今日の場合は、自分のしていること、しようとしていることが彼女にとってどんなに失礼なことであるか、彼女は彼を、彼女に対して「とても怪しからぬことを望む人」だと思うだろう、といったことを実感するきになっていた。
 

つまり彼女には平和で幸福な家庭が、夫や子どもがある。彼はその彼女にいったい何を望もうとしているのだろうか。彼女に何をさせたいと願うのだろうか。
 たとえ彼女と落ち合って話をするというだけのことでも、それは彼女からそのような平和と幸福を奪うことになりかねない。少なくとも彼自身が感じている常ではない感情に照らして考えると、そんな志向性をはらんだことなのである。

もちろん、実際に彼女がそうなるということではなくて(彼女はけっしてそんな愚かなことはしない)、彼の心の中にあることは、多かれ少なかれそうなることを彼女に求めることにほかならないのだから、そんな彼のことを彼女が「いやらしいことをする」(いやらしいというのは卑猥という意味ではなく、人を破滅に引き込むようなことということである。)と感じる理由は十分にある。

「あんなことをするなんて、彼はとてもいやらしい」「よくそんなことができたものだ」と彼女は感じたのではないだろうか。勿論彼女は性格がいいし、それを表面にはださない。彼を傷つけないように好意的な顔を見せている。けれども本当は彼についてあまりいい印象をもっていないかもしれないのだ。

 

  夕方5時半に歯科受診を予約していたので、今夕は彼女を見られないだろう。
 5時ころ3階まで上がっていく用があった。階段をのぼって彼女の事務所がある2階部分にきたとき、彼女を見る機会があるかもしれないと思うのである。といってもたいてい出会うことなしに終わるのだ。2階に人の姿はなかった。やっぱりだめ。それはわかっているさ。

 3階で用件を終えて、階段を2階近くまで降りてきたとき、目の前を若い女性が歩いて横切るのが目に入った。○○事務所かどこかの人だろうかと思って、それとなく目を向けた。背丈から見ても顔の感じから見ても彼女ではない、と思った。明らかに彼に向けて「こんちにちは」と言い、笑い声を残して通りすぎた。〈彼女〉だと気づいたのはそのときだった。印象では彼女だとは信じられない気がした。頬骨がひどく出ている感じがした。顔色もどうもよくない印象を受けた。先日彼女と出会って言葉を交わしたときの青ざめた顔が思い出された。あのときにはとても深い魅力を感じたが、今日感じたのはそんなものではなく、彼女はとても苦しみやつれているのかもしれない、そのためにほとんど魅力が感じられないくらいになっているのではないか、という印象(単なる想像かもしれない気がする)だった。彼自身いまそんな状態の中にずっといるのである。自分の身体の生理感覚に苦しいものがあるために、彼はそのときの彼女の顔の印象に何かしら強度のやつれと苦しみのようなものがあるように感じた。


 
これがはじまったのは、彼女と出会ったあの日、11月9日からだと彼は思っている。これはいったいどうなってしまったのだろうか。気をつけないとほんとうに病気になってつぶれてしまうかもしれない。


 彼女は「こんちは」と言って、速足で通りすぎて、そのあと階段を降りていった。彼は思いがけない出会いに当惑していた。彼女が降りていった階段を彼も降りていく必要があるのに、一瞬彼はどこへ行くのか分からなくなってしまい、○○事務所の裏口の方へ行く道を歩きかけて、そちらではないとすぐに気づいて、ふらふらと彼女の後に続いた。悲しいことに彼女は不自然なほどにひどく足を速めていた。昨日の朝彼が彼女のすぐ前を速足で歩いて彼女から逃げたときのように。どうして彼女はそうしたのだろうか。彼から逃げるため?  今思うとあまりにも悲しすぎることである。彼女はどうして一声彼と言葉を交す気にならなかったのか。やっぱり彼への警戒心、彼と係わることを避ける気持ちがあるのか。それは勿論無理はない。土曜日の彼の破廉恥な行為は彼が想像したよりもずっと大きな不快と警戒心を彼女に与えたかもしれない気がする。(彼女に思われているという愚かしい妄想があるためにあんな破廉恥な行為にもまだ甘い希望の余地を感じていたのだ。)

 もっとも今日彼女とすれちがったとき感じたのはそんなにはっきりとした苦しみではなかった。彼女が明るい感じて「こんちは」と言って笑ってくれたことは、彼には思いがけない喜びとして感じられた。

先週土曜日に彼女の家の前で出会ってしまったこと(とんでもないことだ)、昨日、そのことで合わせる顔がないと感じていたので、仕事場の近くで出会ったとき、彼女を無視したように、挨拶もしないで彼女の目の前を速足で歩いて過ぎたこと。そうしたことにもかかわらず、今日彼女は彼に好意的な挨拶と笑いを向けてくれた。彼女はけっして彼を嫌っていない、少なくとも彼への不快感、怒り、嫌な感じをもっていない、そう考えることができた。


 それよりもむしろ彼が感じたのは、彼女の顔の感じ(そんなによく見たわけではない)から受けたもの、彼女もまたひそかに苦しんでいるのではないかという印象(というよりも想像)だった。


 いや、そうではない、やはり何といっても悲しむべきなのは、彼女がそれ以上ことばを言おうともしないでほとんど逃げる感じで立ち去ってしまったことである。もし彼女が彼への思いを感じて苦しんでいるとしたら、彼女が彼を避けるように逃げていくことは説明できない。彼女と何回か出会ったのに、彼女は彼に何かの質問を向けることも、彼と話そうとするようすも見せなかった。どうしてだろうか。彼が彼女への好意をとても感じていることを知っているのに、どうして逃げる必要があるのだろうか。


 
彼は追うように彼女の後を歩いた。彼女はというと、まるで狂ったような速足であるいていく。その歩き方は彼が昨朝彼女の目の前で逃げるように歩いたあの悲しむべき歩き方に似ているように感じられた。彼女はあのときの彼のことを思い出しているのだ。彼女は彼の真似をすることで、そのことを彼に知らせているのだ、といったことを感じた。彼女のスカートは濃い暗緑色で、その色は彼がはいていたズボンの色と似ていた。勿論愚かしいありえない期待にすぎない。
 彼女は大急ぎの歩き方で、BBB事務所の前を通って表玄関から出ていった。その歩きつきにどこか戸惑いが、彼に見られているという意識からくる微妙なぎこちなさがかいま見られたような気がしたが…

 もちろん、それは彼の心にそのような期待の心があるからで、彼女はそのとき単にただ急ぎの用があったというだけのことだったのかもしれない。

彼が昨朝彼女から逃げて悲しみを感じたように、彼女も今日彼から逃げ去りながら悲しみを感じたのではないか、といったことも想像された。昨朝のことを彼女は悲しんだだろうと彼が想像したように、彼女も今日彼が悲しんだだろうと思ったのではないか…

 


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